HISTORY
『 酒井 愁 - HISTORY 』

「ドラマー覚醒編・"棘の入口"」


〜第四章〜



あの出来事を境に安奈さんはやたら俺に対して積極的になってきていた。

外に配達に行くと店が余り混んでない時には俺についてくる様にもなっていた。
休憩時間も何故か俺と被るように取り始め狭い更衣室で必要以上に密着してくるようにもなっていた…。

俺はこういった事も直美さんに報告していた。
直美さんは…

「愁を信じてるから私は全然気にならないよ」

と言ってくれた。

安奈さんは直美さんとはまた全然違ったタイプのかわいい系のグラマーな人で直美さんと付き合う前のエロ鬼神の俺ならば確実に頂いてしまってたに違いないだろう…

しかし俺の心は微塵も揺るがなかった。

ある日の休憩時間に遂に俺は安奈さんに微妙に告られる…

「なんか…酒井くんの事好きになっちゃったっぽいんだけど…?」

と言われても正直困った…

「すんません。ありがたいんスけど彼女が居るんで」

と言うと

「なら最初は私は二番目でも構わないよ。彼女が東京に居ない時の捌け口でもいいから。でもきっと彼女より好きにさせる自信あるから」

世の男にとってみればきっと魅惑的な言葉であろう。
しかし…

「マジごめん…俺は彼女じゃないと無理だからさ…」

と言ったら思いっ切り抱きつかれた。
胸の感触が思いっきりリアルに感じ素直に反応する俺のアイツ…
それを完全に見透かされてしまった…

「体は正直だね…嬉しいな…女として見てる証拠だよね。我慢しなくていいよ」

と囁かれ、このままだと気が狂うと察した俺は壁に頭突きをして自分に喝入れて安奈さんを振りはらい休憩室から逃げた。

これも報告…
リアルな反応話も報告です…
流石の直美さんも少し心乱してはいたが…

「隠さないでそういう事も話してくれる貴方を信じてるから平気…うん…平気…」

とちょっと自分に言い聞かせる様に言っていた…

数日後俺が仕事から上がり帰ろうとするといきなり知らない野郎に殴られる。

「テメェか!?安奈に付きまとってるしつこい野郎は!?」

「あぁ!?何言ってやがるテメェ!」

野郎に掴み掛かると一気に通行人が集りだし店の前が大事になりつつあった。
やがて店から安奈さんが出て来て

「ちょっとこんな所で何してんの!?場所変えてよ!」

と言って近くの公園に場所を移す。

何しろ言ってる事が話が俺には全く見えない。

どうやら安奈さんはコイツと付き合っててコイツに別れ話を持ちかけたんだろう。
そして別れる理由に俺の事を言った…どうせそんな所だ…
知らんがな…
野郎は語り出しやがる。

「テメェ!ヤッたのか!?ふざけんなよ!?コイツの体は俺のもんだからよ!!」

何言ってんだ?この馬鹿は?と思い

「テメェ…俺はこの人とは関係ねぇ!これからも関係を持つつもりもねぇ!女一人繋いどく事も出来ねぇテメェの非力さを俺のせいにすんなよ。この一発はデケェぞ!?テメェ!!あぁ!?」

と最凶に凄んで言うと野郎はあんだけ意気がってたのにその勢いは何処へやら…
俺は安奈さんにも言った…

「安奈さんよ!俺はアンタと付き合う気もセックスする気もねぇ!勃起してもアンタとはしねぇよ!俺は愛してる彼女としかセックスしねぇ!アンタの事は愛してねぇからしねぇよ!野郎が必要ならコイツでいいだろがっ!もし別れたいなら俺を引き合いに出すなよ!」

一瞬安奈さんの顔色がまるでプライドを傷つけられた様な怒りに変わった気もしたが構ってなんかいられなかった…。

そして俺は野郎に

「テメェがこの人が好きならちゃんと捕まえてろよ。心が離れた事を誰かのせいにすんなよ!紛れもねぇテメェのせいだろが!」

すると野郎は…

「ヤッてないのか!?ヤッてないんだな!?」

とそればっか…!
とにかくこの野郎はヤッたヤらないしか言って来ねぇ。
昔の自分を棚に上げて言わせてもらえば虫酸が走る…!
アホらしい…
つきあってられるかとその場を去ろうとした際に…

「一発は一発だよな?」

と言って思いっきり野郎の顔面を殴った。
ブッ倒れて意識が飛びそうな野郎を安奈さんは介抱もせずボーッと立っていた。

何だかよく解らねぇ煮え切らない感触だけが残り最高に気分が悪かった。

しかし…

また拳を使ってしまった…十ヶ条をまた破ってしまった事を週末来た直美さんに報告すると

「まぁ…一発は一発って意味が私には解らないけど…今回は仕方ないとしましょう…!十ヶ条最後の項目を死守した貴方の心意気を買うわ」

と許された。

更に直美さんは…

「でも…その安奈さんって人…気になるわね…」

と言うから

「大丈夫!俺は揺るがないよ!」

「うん…そこじゃなくて…」

と何かが引っ掛かってる様な口調で言っていたのが気になった…

安奈さんはあれから俺と距離を置く様なると思われたがいたっていつもと変わらない様子であった。
気まずい雰囲気すら無く…

相変わらず過剰に至近距離に寄ってきたり
色々な事…二人きりで会おうみたいな事を言って来たりはするが
それ以上の過剰に積極的に何かを仕掛けてくる事は無くひとまず平穏な日々が続いていた。

そんなある日…

突然本社の人間と言う奴等がやってきた。
露骨にペコリ始める店長。すると…

「この店舗にお客様をお客様と思わないチンピラが居るってクレームが本社に入った。酒井くんってのは何処に居る?」

「あぁ…俺っス…!」

「君はお客様の胸ぐら掴んで脅したそうじゃないか!そんなクレームは我が社では初の事だ!君には今日限りで辞めてもらう!」

といきなりのクビ宣言!

そうか…あの安奈さんにしつこく付きまとってたアイツの事か…!
でも後悔はしてねぇし自分があの場で間違った事もしてねぇと思ったから

「いいっスよ。辞めますわ」

と俺は店を去った…

店の連中が追いかけて来て謝ってきたが

「アンタ達のせいじゃないからさ。短期間だったけどお世話になりました!」

と俺は少し格好つけて清々しく去った…

しかし…

またクビになっちまった…
直美さんに言いずらいなぁ…と一人になったらただそれだけが頭を支配していてトボトボと俺は家路を辿っていた…。