HISTORY
『 酒井 愁 - HISTORY 』

「ドラマー覚醒編・"棘の入口"」


〜第七章〜



救急車に同乗した俺と直美さんは病院にそのまま残り安奈さんの集中治療の結果を待っていた。

何時間待っていただろうか…?
医師が峠は越えた事を告げに来てくれた…

幸いな事に左手の切り傷は浅く直美さんの応急措置が適切だったせいで大事には至らなかった。
しかし大量の睡眠薬投与によるショック状態に陥り一時は危険な状態になっていた…
俺達は意識が戻るのを待つ事にした。
直美さんが話しだす…

「彼女…きっと今回が初めてじゃないわ…」

「えっ!?マジで!?」

「いつもリストバンドしてなかった?初めて会った時ファッションに似つかわしくない大きめのリストバンドが凄く気になったの…後…貴方の話から何となく妙な違和感も感じたし…」

俺…全く気がつかなかった…
どんだけふしあななんだ?俺の目!?

すると看護婦が俺達を部屋に呼んだ。

「友人の方々ですよね?彼女…実は前にも運ばれて来た事があってね…リストカット常習者なの…欝で強い抗欝剤も常用しててね…精神の不安定からくる精神障害が少しあるの…親御さんと連絡とれないから意識が戻るまで居てあげて貰えますか?」

俺達二人は快諾すると病室に場を移した…
俺は自ら命を絶つと言う行為や思考が全く理解出来ずにいた…
この時は何もかもが唐突過ぎてただ混乱していたがその事だけは頭の中で消化出来ずにいた…

「俺…居ない方がいいんじゃないかな…?」

と俺が言ったら直美さんは

「大丈夫よ…きっと…」

と言った。
しかし実は安奈さんが目が覚めて直美さんが目の前に居たらヤバイんじゃないかとそっちの方が気になっていた俺だった。

安奈さんが意識を取り戻したのは朝方だった。
意識が戻ってもすぐには話せる状態になく暫らく病室の外に俺達は居たが安奈さんが直美さんと話したいと言う…
俺はギョッとしたが直美さんが病室に入って行ったので俺も後を追った。
ベッドの横に直美さんは行き俺は入り口付近に立っていた…。

「直美さんが助けてくれたんだってね…放っておけば良かったのに…」

安奈さんが小声で喋りだす…

「直美さん…愁…私にちょうだいよ…」

すると直美さんは…

「ダメよ。貴女は彼の事なんて愛してなんかいないから」

更に続ける…

「安奈さん…貴女…寂しかったのよね…?傍に居てくれるなら誰でも良かったのよね…自分を守ってくれる…愛してくれる人に依存したかったのよね…でもそこに執着してるだけで貴女は誰も愛さない…心を開かない…女は愛されて幸せになるって言うけど女も愛さなきゃダメよ…それに女は体を提供すれば男が傍に居てくれるなんて考え方悲しいじゃないの…悲しすぎるわよ…」

安奈さんは泣きじゃくった…
そして安奈さんが話しだした…

「私の事なんて誰も好きになってくれない…誰も愛してくれる人なんて居ない…親にも昔から嫌われてた…体を委ねれば大抵の男はみんな傍に居てくれた…だから仕方ないじゃない…!でも体に飽きたら男はみんな私を捨てていった…」

安奈さんは更に親に虐待を受けて育ってきた過去をも直美さんに話しだしていた…

「そうだったの…不安だったんだね…でも皆そうよ…一人じゃ心細くて人は生きてなんかいけないわ。だから支え合う、寄り添うんじゃないかな…それは相手に強要する事ではなく共有していく物だと私は思うの…安奈さん…貴女は本当に人を…男性を好きになった事あるの?自分の事ばかりじゃダメだよ…見返りばかり気にしちゃ期待してたらダメ…その人の事を幸せにしてあげたいって思った事無い?その人の幸せが自分の幸せと感じた事無い?」

そう直美さんが言うと…
安奈さんは…

「無いなぁ…私…いつもどうしてこうしてくれないんだろうとかばかり考えてた…前の人も私と寝る事ばっかで守ってはくれなかった…」

「それで助けてくれた彼に自分を守ってくれる人って錯覚しちゃったんだね…?」

直美さんがそう言うと安奈さんは…

「そうなのかな…よく解んないな…私…人をちゃんと好きになった事なかったのかな…無かったかもね…私にそんな人現れるのかな…?」

「大丈夫よ…必ず現れるわ…!だからその人と巡り合う為にも自ら命を絶とうなんて考えたらダメよ…」

直美さんがそう言うと安奈さんはようやく笑った…
泣きながら笑っていた…

「直美さんのその幸せにしてあげたい人は愁なの?」

そう安奈さんが聞くと…
直美さんは

「そうよ…暴れん坊で大変だけどね…!」

「ゆくゆくは結婚するの?」

安奈さんは更に聞いてきた…

「そのつもりよ…彼次第って感じだけどね。彼の夢が私の夢だから…私は今はそれ以上を望むつもりは無いの…」

「嫌になっちゃうな…なんか…馬鹿じゃないのって感じね二人は…」

「そうかもね…」

そう言い合ったら二人は笑い合った。
そして安奈さんは…

「直美さん…貴女には女として適わないや…私も直美さんみたいな女になるわ…!それに…よく考えたら愁ってタイプじゃないし…!必ず私も心から愛せる人を見つけるわ…」

と直美さんに最後に言った…

この女同士のやり取りの間俺は入り口の近くでひたすらボーッと只立っていただけだった…!
完全に蚊帳の外状態であった…!


容体も意識も落ち着いた様子…直美さんと話して気持ちも落ち着いた様子だったから俺達は病院を出た。

帰り道歩きながら俺は直美さんをジーッと見ていると

「何?何よ?」

と言うから

「いや…凄いなぁと思って…いつから安奈さんが病を抱えてると思ってたの?」

「う〜ん…最初に彼女の話を貴方に聞いた時からかな?でも只のカンよ。初めて会った時ある程度の確信はしたけど…」

「俺に言ってくれれば良かったのに」

すると直美さんは

「だって貴方に言ったら思いっきり動揺してオロオロしちゃうかな?って思って。それでまた彼女が傷つくと思ったし…」

おっしゃる通りです…
その通りの対応しますよ…俺…

すると彼女は…

「そういえばちょっとガッカリしてるんじゃないの?少しはヤベェ〜俺ってモテてるー!って思ってたんじゃないの〜?」

と言われてまた完全に狼狽しながら

「い、いや!ぜ、全然そ、そんな事思ってないよー!」

すると…

「だから貴方は本当に解りやすい人なんだって!」

と笑われた。
そして…

「覚えてる?私と貴方が初めて会った時…貴方が私を助けてくれた事…安奈さんの時と一緒よ…女はそうゆうのに基本的に弱いのかもね…」

と言ったから

「何?何?何それ?どうゆう意味?」

と言ったら

「一生解んなくていい!」

と言われた…。

「でも俺は…綺麗事かもしんないけど…やっぱりどうしても…どんな理由があるにせよ自分の命を粗末にするのは許せんな…意味わかんねぇよ…」

と俺が漏らすと

「貴方みたいに心が強い人ばかりじゃないのよ…繊細で壊れやすい人は沢山居るの。自分の価値観でその人の事を決めつけて…そして自分の価値観を押しつけたら絶対駄目よ…それに…それにね…もしかしたら音楽にはそんな人を救えるよう な…生きる力を与えてあげられる様な力があるかもしれない…貴方にはそんなミュージシャンになって欲しいと思うの…だって…」

直美さんは言った…

「だって散々今迄弱い人の事もイジメてきたでしょう!?だから償いなさい!」

と話は急展開し痛い所を突かれ

「その通りです!!」

と俺は力一杯また答えた…

でも俺の中でミュージシャンを目指すにあたってまた新たなテーマが掲げられた気がした…!

音に魂を込める…

そこに何かを伝える事が音楽には…ドラムには出来るのかもしれない…と。

数日後、安奈さんが退院する時に俺と直美さん二人で病院に行った。
安奈さんは俺に

「ごめんね愁。私、アンタの事そんなに好きじゃなかったみたい」

「はぁ…」

別にいいんだけどエライ複雑な言われ様だ…(笑)
そして別れ際に直美さんに…

「じゃあね!直美姉さん!またね!」

と言って去った…

姉さん!?
またもや直美さんを姉さんと呼ぶ奴が増えた…

そして空前の俺の激しきモテ期が幕を閉じた…