HISTORY
『 酒井 愁 - HISTORY 』

「ドラマー覚醒編・"棘の入口"」


〜第十二章〜



直美さんが遂に東京にやって来た。

引っ越しとはいえ俺の荷物なんてたかが知れていて雄二と二人で徒歩で何往復かするだけで終わるくらいだった。
直美さんの荷物はそれなりにあったが安奈さんも手伝ってくれ女達の手際の良さで整理されていき引っ越しははかどっていった。

新しい部屋にも直美さんは

「これは魂の言葉よ…これをおざなりにしちゃいけないわ」

と言ってコーちゃんが“夜露死苦哀愁”と書いたジャケットを飾ってくれた。

直美さんは私が居るからもういいわよと言っていたが俺は例の十ヶ条の貼り紙も部屋にドカンと貼った。
これも俺にとっての言魂だから…

「凄いっスね!兄貴!どれだけ荒らくれ者だったかがすぐに解る男の勲章みたいな貼り紙じゃないスか!?これ守れてるんスか!?」

「テメェのせいで破ったばっかだろがっ!話蒸し返してんじゃねぇよ!タコ!直美さんが思い出しちまうじゃねぇか!ボケ!」

と雄二を小突くと…

「姉さん!今兄貴に殴られました!!」

と言って場を盛り上げやがる糞小僧!!!

雄二には生意気に貴子と言う彼女が居てこの引っ越しも手伝ってくれた。
こんなコイツの彼女である…どうしようもないヤンキー女で糞生意気な女…等では全然無く
生徒会をやってるようなわりと可愛い真面目な堅気の子でビックリする。

全然学校に行かなくてたまに行けば喧嘩と素行不良で備品等を壊すコイツに最初は学校に来なさいと家に行ったり注意とかしていたのだがいつの間にかくっついちゃったらしい。
正に…

“何でテメェにこの子がっ!?”

状態なわけだ…!
これじゃあまるで…

俺と直美さんみたいじゃないか!?

どこまでもリトル・俺の雄二を見て嫌になった俺だった(笑)

貴子も直美さんと意気投合して「お姉さん」と言って慕ってきていた。

こうして俺と直美さんの同棲生活が始まったのだが事ある毎に俺ん家に人が集まる様になったのだ。
俺達二人だけで甘く暮らしたい俺は複雑だったりした(笑)

直美さんは近場の宝石店で働く様になったのだが俺がなるべく稼いで養っていきたいからとシフトをセーブして欲しいと俺は言った。
週に何回かは俺は店以外にも短時間で稼げる力仕事をすれば不便かける事なく大丈夫だと言ったのだが…

「だったらその時間練習しなさい!私が何の為に東京まで来たと思ってるの!」

と言われて俺はその分は彼女に甘える形をとった。
そして直美さんは朝晩の食事と弁当を持たせてくれてきちんと主婦業もこなしてくれた。

俺は直美さんが来てくれた事を機に音楽への道をそろそろ本格的に走りだそうと考えていた。
そんな矢先だった…
スタジオで個人練習をして終わった後、俺は古屋さんと話をしていたら話の流れで…

「酒井くん。楽器屋で働いてみたらどうだい?そろそろ君もバンドに入ったり作ったりする段階でいいと思うんだ。俺の知り合いの楽器屋が募集してるからさ。紹介してあげるよ!そこで君ももっと音楽に密接な環境になれば沢山音楽人として吸収も出来るし何かしらのきっかけが生まれると思うんだ。どうだい?」

それは願ってもない事であった。
早速家に帰り俺は直美さんにその件を話すと

「それは古屋さんの好意に甘えなさいよ。凄く良い話じゃないの。でもまた面白い事になっちゃったわね…」

と直美さんが言うから何かと問うと…

「その楽器屋って…東京の初日に私と行った楽器屋よ!?」

ゲゲッ!?あの胸ぐら掴んだペダル買った所!?

…てゆうか俺…あんな馴れ馴れしい接客出来んのか!?
一抹の不安を拭いきれないまま俺は古屋さんの紹介を受けて面接に向かった。
面接は店舗ではなく本社と呼ばれる所で行われ俺は来月から採用となった。

そして今の店を辞める事を紹介してくれた佐治さんに報告する。
理由を言うと佐治さんは目標に向かって頑張れと同調してくれた。

俺は残りの日をキッチリ厨房で過ごす事に努めた…。

ある夜俺が練習から帰ってくると安奈さんが来ていた。

「愁!安奈に好きな人が出来たんだって!」

と直美さんが言うから

「マジ!?俺の知ってる奴?」

と言うと

「知らない人だよ。最近知り合ったばかりだから。でもね…姉さん…私…その人の事想うだけでドキドキするんだ…その人の為に何かしてあげたいって初めて思えるの…こんな事って今迄無かったよ…」

「良かったわね…安奈…きっとその人にも安奈の気持ち伝わるわよ…」

と直美さんは涙ぐんで言った。
俺は…

「もう付き合ってんの!?」

と言ったら

「うっさいわね!その“もうヤッたの?”みたいな言い方やめてくれる!?なんて軽薄で下品なの!?」

と安奈さんに言われ

「えぇ〜私にも何か今そう聞こえた〜」

と直美さんにも言われ散々な俺であった(笑)

でもあの安奈さんが無条件で自分から人を男を好きになってこんな乙女みたいな事を言ってる姿は微笑ましかった。

数日後その男に告って二人は付き合う事になったと聞いて俺も直美さんも自分達の事の様に喜んだ。

そして女同士のラブラブ報告会はしょっちゅう行われた。

それから暫らく経った頃だっただろうか…?
ある日の休日二人で出かけようとしていたら呼び鈴が鳴った。
折角出掛けようと思ってんのに誰だとドアを開けると…

松葉杖をついた山土井が立っていた!

「山土井!オメェ!山土井じゃねぇか!?直美さん!山土井だよ!!」

と直美さんに言うと

「山土井くん…!」

と感極まる…!

「お久しぶりです!姉さん!酒井〜!久しぶり!!」

部屋の中へ通そうとすると山土井は女を連れていた。
何処かで見たような無いような…

「退院してからあそこから居なくなったって本田から聞いてよ。心配してたんだぜ!?」

と俺が言うと

「あの後これから俺が出来る事って何があるかな?って考えたらあそこに居たらいけないと思ったんだよ…一回千葉の実家に帰ったら親も腫れ物を触るような感じでさ…そしたらコイツが電話くれて励ましてくれて勇気づけてくれたんだよ。で…コイツと一緒に新しい道を歩もうと思ってさ…」

更に山土井は…

「俺…足はまだこんなだけどよ。この近くのバイク屋で働く事になったんだよ。俺から味覚を奪った単車だけどさ…やっぱ嫌いになれないっつーか…なんか…どうせならとことん単車と付き合ってやろうかなって思ってよ?」

「そうか…って事はオメェ!!御近所さんな訳!?」

と俺が言うと

「そうだよ。やっぱアンタ達は俺の理想でもあるから近くで見ていたくてな」

そんな俺が広瀬夫婦に言ったみてぇな事言いやがって…と思ったら泣けてきちまいやがった…。

「酒井!コイツ覚えてねぇか?」

と山土井が彼女を抱き寄せると…

「いや…実はさっきから気になってはいたんだよ…でも解んねぇんだ」

と俺が言うと

「コイツは芸者の忍だ!あの時俺等が喰い散らかした中に居たんだよ。でも大丈夫。オメェとはヤッてねぇから!…あっ!」

馬鹿!山土井!テメェ!何言ってくれちゃってんの!?と俺が直美さんの方を見たらギラリとこちらを睨んでいて…

「ふ〜ん…そうゆう事…へぇ…出た出たその話…あらそう…」

…とご機嫌がよろしくない…!

「姉さん!ごめん!昔の話だから!コイツが姉さんと知り合う前の話だから!」

と山土井が焦って言ったら

「嘘よ!そんな話とっくに知ってるからいいわよ。…て事は私達は同郷同士になる訳ね!よろしくね!忍ちゃん!」

「はい!山土井くんから直美さんの話は一杯聞いてますしあの界隈では綺麗な人であの極悪な酒井くんを更生させた人って芸者の中でも有名でした!憧れです!仲良くしてください!」

と忍ちゃんは言っていた。危ない所だった…(笑)
俺達は人を呼び寄せる何かがあるのかな?なんて事を考えていた。
またこれから騒がしくなりそうだ…!

そして俺もいよいよ楽器屋でのバイトが始まろうとしていた。
何もかも平穏に事が回り始めていたと思っていた。
しかし誰もが予想もしていなかった事が…
俺も直美さんも決して忘れる事が出来ない痛ましい出来事が起こるなんてその時は微塵も思っていなかった…