HISTORY
『 酒井 愁 - HISTORY 』

「ドラマー覚醒編・"棘の入口"」


〜第十三章〜



古谷さんの紹介により楽器屋のバイトを始めた。

その楽器屋は階毎に売場フロアが異なり
1階はキーボード、
2階はドラム、
3階は中古売場、
4階はギターとベース
とで別れていた。

俺は3階の中古売場に任命された。

その売場にはスティービーレイヴォーン好きの社員の野坂さんを筆頭に個性的なメンツで固められていた。
そして長身で長髪、金髪の井沢さんが俺の教育係(?)としてつくようになった。
端正な顔立ちの井沢さんは俺の五個上で直美さんとタメであった。

「長髪でカッコイイ人って初めて見たな…」

これが俺が井沢さんを初めて見た時の正直な感想だった。
接客よりも何も俺が一番問題だったのは…

楽器の事を全く知らねぇ事だった!(笑)
くどい様だが…

全く知らねぇんだから!

中古楽器フロアだ。

キーボードも置いてある=MIDIって何だ!?

エフェクターも置いてある=ディストーションとオーバードライブって何が違うんだ!?

ベースも置いてある=プレベとジャズべの区別がつかん!

ギターも置いてある=ストラトくらいしか知らん!

MTRも置いてある=単車の名前じゃねぇよな??

ドラムも置いてある=何となく解る…か!?

と言うあるまじきレベルの俺に井沢さんは全部親切に教えてくれた。
そして接客なのだがとにかくフレンドリーに接する事を義務付けられた。

出来るのか!?この俺に!?

井沢さんと練習をして俺は客に向かう

「今日は何か探してんの?」

口から反吐が出そうなくらいのフレンドリーさを醸し出す。

「見てるだけ」

こんな事を返されたりしたら「テメ!この!」と殴り掛かりそうになる衝動に駆られるが井沢さんや野坂さんに宥められながら俺は頑張った。
接客の他にも電話での問い合わせの処理や高額商品は大半はクレジットで買う輩ばかりな為にそのやり方を教わったりした。

初日を終え家に帰ると俺は直美さんにその予想以上の大変さの愚痴を言いまくる。
直美さんは黙って笑顔でその愚痴を聞いてくれていたが単純な俺は吐き出すだけでスッキリしたりする。
そして…

「そういえば俺、初めて長髪がカッコイイと今日思ったかもしんない」

と言うと直美さんは

「伸ばしてみる?」

と言ったが自分がするのは別だよと俺は言った。

しかし俺の接客はデタラメそのものだった!
別に売り上げのノルマは無かったがどうせなら客に売りつけてやろうと滅茶苦茶な事を口八丁並べて売っていた。
まるでパー券でも捌くように(笑)
楽器を始めたばかりのガキが俺のターゲット!

「バイモード・コーラスって普通のコーラスと何が違うんですか?」

「ん?あぁ!コーラスなのにディレイ効果も得られちゃうんだよ!」

とディレイの意味すら完全には知らないのに覚えたての横文字をフルに使い適当な事を言いまくって売った。

「サスティナーって何ですか?」

「あ?音をバチッと止めたい時に使うんだよ!」

とかね(笑)

少しは知識があるべきであるドラムも…

「メイプルの音の特徴は?」

と聞かれれば

「あ?甘いんだよ!音が甘いの!」

と完全にその名のイメージ先行の素人丸出しの事を自信満々で言い放っていた!(笑)

しかし初心者用のギターやベースのセットを初心者とすぐ見て解る奴に売り付けるのは俺は得意だった。

元々、本体とケースとシールドとミニアンプとチューナーとピックが付いてのセットだったが
本体とケースだけ見せて後からこの俺様がオマエの為にこれだけサービスで付けてやるぜ!と言った押し付けアニキ商法でお得感を心に擦り浸けて売りまくった。

しかしよくクレームが来なかったと思う。
この時期に俺から楽器を買った奴!
心からスマンな!
道歩いてたら野良犬に噛まれたとでも思ってくれたまえ!

一番厄介なのはヴィンテージ楽器マニアの客だった!何しろ糞蘊蓄が凄い!
ストラト一本でもレスポール一本でも、やれここは何年のペグがついててオリジナルじゃねぇだとかいちいちケチつけてきてイラつかせやがる。

「この年代のギターはやっぱり音が枯れてていいんですよね」

とうっとりと語る客の横で

「そうっスよね〜!」

と適当な相槌をして「早く買えや!馬鹿!」と脳内で叫びまくっていた。

そういう蘊蓄客はとにかく井沢さんと誉めまくりいい気分にしまくった上で糞高いギターを買わせた。

蘊蓄が無い俺、ギターなんぞ全く弾けない俺はとにかく音出しをやらせてアンプにシールドを突っ込み散々弾かせて適当に誉めて買わせた。
今考えればマジで酷いものだ(笑)
こんな売り方をしていたが何となく楽器の知識も少しずつ増えてきていた俺だった。

糞生意気な小僧が

「フェンダーのUSAのいいギターが欲しいんだよ!金は幾らでも持ってるから!」

とエラそうに現れると“どうせならこの馬鹿に一番糞高いギター買わせようぜ”と井沢さんと丁寧に接客していき

「予算は大体どのくらいなのかな?」

と問いただしてみる。

「あぁ!?十万くらいかな?」

とヌかした瞬間に態度は急変し

「買えるか!!ボケェ!!帰れ!!」

と真剣に追い帰したりした。

時代にしてあるギタリストのモデルのギターが飛ぶように売れていたのが思い出される。
黒と白のアレである(笑)
不届きな話だが俺はそのアーティストの事を当時一切知らなくてそのギターを売っていた。
その後、その本物と一緒に音を出す事になろうとは当時の俺は全く予想もしていなかった…

そして客の中には今思えば著名なミュージシャンも多く来店してきていた。
当時の俺にはそんな事は解るわけもなく適当にあしらっていた(笑)
ある著名ギタリストが来店した時にはギブソンのレスポールを音出ししたいと言われ全くその人を知らん俺は

「君はこっちの方が合ってんじゃね?」

と言って事もあろうかランダムスターかなんかをドドォーン!と差し出した覚えがある(笑)

数年後井沢さんからその話を聞いていつか会うチャンスがあったら謝ろうと思う(笑)
今は役者中心な人だからあんま会えるチャンスが無いのよ(笑)

ある日ギターフロアの新山くんと井沢さんと飲みに行く事になった。
新山くんは茶髪で毎日長髪を逆毛で立たせていてこれまたスタイリッシュな男であった。
なんかツッパリくんではないロックな男達に囲まれ飲んだ俺は変な感じもしたが新しい世界を垣間見た様な新鮮な気分で嬉しかった。
新山くんはパンク好きで何故か俺に色んなパンクバンドのテープを聞かせてくれた。
どの売場も音楽好きな、そして明日のロックスターを目指す連中で溢れていた。
一日がある意味音楽漬けだったのだ。

やみくもにドラマーと言う道を進もうとする俺には最高な環境だったと言えよう…!
慣れるまでは大変だったが慣れてしまえばそこは音楽の世界を目指す者にとっては聖地に近かったのであろう…

ある日の事だった。

井沢さんが俺を休憩室に呼んだ。

「酒井…オマエってドラムやってんだよな?」

そう聞かれて

「そうっスよ」

と答えたら…

「叩けるか?」

と言われて

「叩けます!」

とハッタリをかました。
すると井沢さんは

「そうか…酒井を信用するよ。わりぃ…!俺のやってるバンドのドラムが抜けちまったんだよ。まだ先なんだがライブが実は決まっててさ…手伝ってくんねぇかな?良かったら入って欲しいくらいなんだけど…勿論一度スタジオで合わせてみてからだけどさ…」

ナヌッ!?
俺ドラマーとしてバンドに誘われてんの!?
スゲェ嬉しかった!

井沢さんはヴォーカリストで“XAVIES〜ザビエス”と言うバンドをやっていた。
なんてダサいバンド名だと当時の俺も感じていたがそんな事はどうでも良かった。
バンドがやれる!

ライブが出来る!

俺は生まれて初めて自分に向かって発せられた“ライブ”と言うキーワードに心が踊っていた…!