HISTORY
『 酒井 愁 - HISTORY 』

「ドラマー覚醒編・"棘の入口"」


〜第十六章〜



俺の誕生日の時に撮った安奈さんの写真と直美さんが形見分けで貰ったリストバンドが部屋に飾られるようになった…

安奈さんが誕生日の時に言ってくれた「私もアンタの夢が叶う事を願ってる一人」と言う言葉を俺は絶対に忘れないと誓っていた…

「私達が早く前を向いて行かないと逆に安奈を苦しめる事になる…」

直美さんは自分にも強く言い聞かせる様に言っていた…。
直美さんは気丈に俺に悟られまいとしていたが俺にはヒシヒシと彼女の深い悲しみが伝わってきていた…
俺が彼女の事を支えないと駄目だ!と強く思っていた。

そんな時に仕事と練習を終え家に帰ってくると雄二の彼女の貴子が来ていてた。

「愁…雄ちゃんが高校へ行かないって言い出してるらしいわよ」

直美さんが俺に言った。

「えっ?あの馬鹿高校入れないの?」

と俺が言うと

「違うのあのコそれ程成績は絶望的では無いみたいなのよ。でも…」

直美さんは言葉を詰まらせた…

「え?でも…なんなの?」

貴子が言った…

「アイツ…俺は兄貴みたいに生きたいからって…愁さんみたいな男になるなら高校は必要ないって…」

あの…馬鹿…!
それは馬鹿すぎるだろ!?
しかし…
俺も同じ様な物だったか…
そういえば俺は何で高校行ったんだっけ…?

俺は考えてみた…
先公や親の頼みで受けてみたら受かっちまった。
とはいえテストを受けた時に周りの奴を脅して答案を見て書き写したりしたが…
入学式に俺のバイブルだった“たいまんぶるーす”と言う漫画と同じく特注の白ランで参上したら校内に入れて貰えなかった。
特にやりたい事も特に無かったし行ったら退屈だった…
だから殆んどバッくれてた。
喧嘩も高校デビューばっかでつまらなかったし教師もいちいち俺をイラつかせた。
結局何の意味も感じなかったって事か…

ちきしょう…!
何処まであの馬鹿は俺と同じ道を辿るつもりなんだ…!
俺は貴子に言った。

「俺がアイツと話してみるよ」

貴子は

「お願いします」

と深々と頭を俺に下げた。
こんないい子が居るのに何であの馬鹿は!?
俺とアイツが違う所はこんな子当時俺には居なかったって事だ!
貴子が帰ってから俺は直美さんに…

「ねぇ、もしも俺が高校辞める時に俺と付き合ってたら直美さんは俺が高校辞めるのを止めた?」

と聞くと…

「なんか高校生の貴方と恋愛するって事自体想像出来ないのよね。だから…もしもは人生には無いって事で」

と言われてそりゃそうだ!と納得する。
だから俺と雄二の人生はやはり違うんだと言う事に確信が持てた。

次の日俺は雄二を呼び出した。
勿論直美さんからは「殴ったら駄目よ」と言われていたのは当然の事…

「なんスか?兄貴!」

能天気で元気一杯のこの野郎を見てるだけで貴子の健気さが染みてきやがる…

「オマエ…高校行かねぇんだって?」

「あれ?貴子が言いやがったんスか!?ハイ!前に兄貴が“高校なんて無駄だ!俺は行った事すら後悔してる!”って言ってたから俺もそうだなと思いまして!」

あれ!?

俺そんな事言ったっけ!?

俺は記憶を呼び起こした…
するとその話には前後があった筈だった!

「馬鹿!それは結果論を語ったまでた!あの高校時代の無駄に過ごした時間も今の俺には惜しかった!無駄にしたくなかったって事だ!」

俺がそう言うと雄二は

「すんません。ちょっと話が見えないんスけど…」

とヌかすから

「雄二…オマエ何かやりたい事ってあんのか?」

と俺が問うと

「やりたい事…?やりたい事って何スか?俺は…兄貴みたいに自由に生きたいんスよ!社会に出ても尖ってて惚れた女に熱い兄貴の背中見ていきたいんスよ!」

どうやらこの馬鹿は何かを履き違えて考えてるみたいだ…俺は奴に語った…

「雄二…山土井も中卒だ。しかしな…奴は板前になるってテメェで決めた道があったからこその中卒なんだ。今は奴はその道を身体的に絶たれてやむなく別の道を進んでる…」

俺は更に…

「俺は…俺はよ…何も無かった…生きる目標すら夢も希望も無かった…俺は高校を辞めた事によって色んな出会いや事柄があって生きる目標が見つかったのは確かだ。今でこそ俺の隣に直美さんが居て支えてくれるが俺がオマエぐらいの時は俺には誰も居なかった…恐いからとか殴られるからと周りに俺を祭り上げる奴等は沢山居たがいつも俺は所詮一人だった…マブは俺よりも先に自分の道を見つけてたからな…でもよ…オマエには…雄二には貴子が居るじゃねぇか!あんなにもオマエを心配してくれる恋女房的な女が居るじゃねぇか!オマエも惚れてんだろ!?惚れた女泣かせんな!」

俺が熱く語ると雄二は

「女は黙って男が決めた道に付いてくればいいんスよ!!兄貴は何が言いたいんスか?俺に高校に行けって言いたいんスか?」

と語った…
俺がそうだと言っても雄二は首を縦には振らなかった…
やはり言っても解らんか…そして俺は…

「男は言葉でいくら交わし合ってても埒があかねぇよな。ならよ、俺の顔面に一発でもオマエの拳当てる事が出来たらオマエの好きな様にすればいい。当てられなかったら俺の言う事聞いて貰うぜ?」

と言った…

「ムチャクチャじゃないスか!?」

「ゴチャゴチャ言ってんじゃねぇよ。やるならマジだ。タイマンでいいぜ?倒すつもりで来いよ?テメェの拳なんざ当たるわけもねぇ!それとも何か?オマエは拳の一発も入れられないくらいのへタレか?だから高校とかもホントはビビって入れねぇだけなんだろが?」

「ちきしょう!」

見事なまでに俺の口車に乗った雄二が殴りかかってきて妙なタイマンが始まった…
殴りかかってくる奴の拳は俺の顔面に届くわけも無かった。
俺は手を出さなかった。
避けて突飛ばすのを繰り返していた。
俺はいつの間にか熱くなり物事の趣旨を完全に忘れていた…
「ぜってぇ当てさせねぇ」とムキになって何の為にこんな事してるのかさえ忘れていやがったと思う。
暫らくそうしていると雄二の体力は限界にきたようだった。
突飛ばすと起き上がって来なくなった…

「オイ!終わりか?…ったくしょうがねぇな」

と雄二を起こそうとした瞬間…奴の拳が俺の顔面を捕えた!
そしてついつい条件反射で俺も奴の顔面を殴っちまった…

「やった!兄貴に当てた!今の俺の勝ちですよね!?やった…!」

雄二は泣いて喜んでた…
一瞬の油断や隙だったが確かに奴の拳は俺の顔面を捕えた…ここで俺はようやく趣旨を思い出した…
しまった…!
だがもはや引っ込みがつかん…!

「あぁ…オマエの勝ちだ!痛ぇな…結構いいの持ってんじゃねぇか…!約束だ。好きにしろや!」

と俺が言うと雄二は言った…

「兄貴…俺…高校行くよ…高校行きながら兄貴みてぇなビッグな夢探すよ…やっぱ貴子に惚れてるしアイツを泣かせたら駄目だよな…やっぱ兄貴には勝てなかったけど…何かスッキリしたよ」

あれ?オマエ勝ったのよ?と俺は驚く。

「やっぱわざと当てさせるなんて兄貴はスゲェや…!人間の器がデカイと言うかさ!それを勝ちなんて思ってたら俺は貴子に笑われちまう!」

いや…オマエの拳…バッチリ普通に俺の顔面に当たったんだが…
まぁ…いっか(笑)

そして雄二は高校へ進学する事になった。
直美さんも貴子も「男達のそうゆう所がサッパリ解らない」と口を揃えて言っていたが俺等野郎共も自分達でも何が何だか解らんよ(笑)

雄二は俺の分身だ…

不思議な物だ…
コーちゃんが居て俺が居る…
俺が居て雄二が居る…
今になって俺は何故あの時コーちゃんが俺を救ってくれたのか…
何となく解る気がしていた…
雄二を見てると放っておけない…
自分が辿った過ちをコイツに辿らせてはいけない…
そんな想いが自然と沸いてくる…
勿論自分を棚に上げてだがね(笑)
コーちゃんもそうだったんだろう…
俺達は棚の上の住民なのだ(笑)
いつかきっと雄二も誰かに対して棚の上の住民になるに違いないだろう…

そして俺は今迄の自分からは考えられないようなある決意をしていたのだった…