HISTORY
『 酒井 愁 - HISTORY 』

「板前編・"拾われた未来"」


〜第一章〜



親父は言った…

「最低でも高校ぐらいは出ないと底辺だ!カスだ!」

残念な事に思考能力が既に底辺だった当時の俺にはそれらの台詞はケツを蹴り上げる誉め言葉にすら感じたモノだ。
“ろくでなし”なんて言われた日には讚美に近い感覚すら覚えた程なのだ。
認識の誤ったアウトローに憧れていたのであろう…
頭髪検査や素行不良、喧嘩等で次に登校する時には坊主にしていかなければならない、おまけに何処か運動部に強制預かりと言う条件を出されていた。
それが嫌なら退学と…
要するに坊主になるくらいなら辞めると言う素晴らしい理由なのだ!(笑)

そして俺は高校を勝手に去る事となる。
既にドラムは始めていた。
ここで

「時間が勿体ねぇ!そんな時間があるなら俺はバンドをやりてぇんだ!」

と自身の信念を貫き通す情熱が微塵でもあれば素敵なエピソードとして語れるのだがこの時の俺は本当に人として荒んでいたように思う。
昨今大人達が子供達に対して見下した様に「夢が無い」「目標が無い」等と語る場面をよく目に耳にするがそのガキ達の気持ちが俺には良く分かる。
本当に何も無いのだ!(笑)
この頃の俺は「生きる目標」なんてモノは無かった…
本気で口癖は「ウザってぇ」「かったりぃ」
そしていつも意味もなく何かにイラついていた。
何もしない癖に心の空虚感だけは常にあったのである。
現在の「ウザイ」「ダリィ」とまったく一緒。
加減も知らないしモラルも無い。
卑怯である事が自慢だったりするもんだから喧嘩のやり方もタチが悪く異様なまでに強かった。
今思えば喧嘩が強かったのではなく人を傷つける事、何かを破壊する事に対しての躊躇感が鈍感だったのだろう。
そんな自分がたまらなく大好きで陶酔しきっていたりするから始末が悪い…
だからプライドも何故か無駄に高いのだ。
横浜銀蝿のコピーバンドで始めたドラムなんてその頃の俺に情熱を与えてくれる筈も無かった。
エイトビートがようやく叩ける程度だ。
楽しくも無い…

高校を去り親に勘当された俺は

「勘当するなら手切れ金をよこせ」

と真剣に要求する。

「馬鹿が…幾らだ!」

とあっさり要求が通った事に驚いた俺は

「えっ…?十万くらいか…?」

とその場で十万をキャッシュで渡され有頂天になる程の馬鹿野郎(笑)

十万握り締め直ぐ様家を出る。
取り敢えずまとまった金を持っている。
そんな十代の発想は至ってシンプルなもので先ずは快楽悦楽への道を迷わず選ぶ。

彼女を呼び出しラブホに連泊しセックス三昧である。
しかし儚いものである。

高校辞めて手切れ金十万握り締め得意気に語る俺に彼女はドン引き。
女はいつでも男よりも一枚も二枚も上である…と言うより賢い生き物だ。
一気に将来性を計算されたのか三日目の朝には忽然と姿を消していた…

さほど傷心にもならない懲りない馬鹿は暫くダチの家を泊まり歩き自堕落な生活を繰り返す。
たかが十万だ。
湯水の如く無くなってゆく…
そんな時に中学の頃に一緒にコンビ組んで外部と喧嘩しまくった一番のダチ公が中学卒業後にとある温泉街に板前の修行に行ったと耳にする。

俺はその温泉街の近郊には縁がありそこには馴染みを感じたのだ。
そんな事も手伝ってか無性に会いたくなり俺はその温泉街に向かうのである…