HISTORY
『 酒井 愁 - HISTORY 』

「板前編・"拾われた未来"」


〜第十一章〜



喫茶店のカウンターで俺は凍り付いていた。

女に関してはこの歳にして既に百戦錬磨であった。
地元にいる時も自分で言うのも何だが女は寄ってきていた。
無論彼女も居たが心の中ではちゃんと自分の女と認めた事等無かった。
何しろ自分が一番大好きなのだから!(笑)
なので連絡がとれなくなった彼女に対しても“フられた”とか“別れた”といった感情すら無かった。
当時の俺の女性観は最低な物だった。
要するに女=性的欲求を満たす対象…それかアクセサリー程度にしか思っていなかったのだろう…
完全に女の敵、完全に恋愛感情欠乏症である。
その俺が…

固まっていた(笑)

下衆な表現しか思いつかないのが歯痒いがその彼女は“完全堅気のお嬢さん”に見えて何を声掛けたらいいのかすら解らないのだ(笑)
絶対に俺より年上なのはすぐに解ったがその上品なお姉さん的な所がまた完全にストライクだったのだ。
愛読していた現在ではヤンキーと名称されるが当時はツッパリ(笑)漫画等では立場や世界が違う二人が惹かれ合いやがて強い愛で結ばれる…
そう…この設定に俺は非常に弱かった(笑)
強い荒らくれ主人公の隣には必ず荒げた世界とは無縁なか弱い堅気の女が居た。
これに完全に俺は憧れていたのだ(笑)
外道な奴程理想が高かったりするのだ。
非常に厄介なのだ(笑)
しかし現実にはなかなかお目にかからないそんな理想が…
目の前に居た(笑)

だが結局その日は一言も話し掛けられずに店を出た。
しかも休憩時間一杯までモジモジしていた(笑)
午後からの仕事が終わり俺は速攻でその喫茶店に向かう。
…が既に店は閉まっていた…!

コーちゃん達と合流すると俺はその事を言わなかった。
エロ鬼神の俺がそんなモジ男くんになってる事をこの人達に知られたら絶対にからかわれ面白がってブチ壊されると思ったからだ(笑)
本田や山土井が

「あのホテルのフロントに若い女が入ってなかなか可愛いぜ!食っちまう?食っちまおうぜ!」

等と盛り上がってるから

「君達…そんなくだらない事に青春を費やすのは止めなさい!女性を何だと思っているのかね?なんて君達は下品なんだ!まったく!これからはやっぱ恋に愛に生きなければならん!」

等と言ってキョトンとされる(笑)
コーちゃんとアキラくんにも

「坊っ!ラリってんのか!?」

と言われ

「ラリってなんかないよ。そんなクスリなんぞは中坊で卒業する事。あのねぇ…やはり人生は…やっぱ愛だよ…うん…!」

と言って完全に不気味がられる。

次の日から午前中には死ぬ気で仕込みを終わらせた。
天麩羅200人前何のそのだ!
人間死ぬ気でやれば何とかなる物である(笑)
そして昼間にはその喫茶店に行くのだ。
大体行くと最初ババァがいる。
ババァには用はねぇ!
何日か通い大抵一時には彼女がやってくる事が解った。
今思えば立派なストーキングである(笑)
相変わらず声掛けられないでチラ見の嵐をしているとある日ちょいとガラの悪い奴が店に入ってきて彼女に乱暴な態度をしたり絡んだりしたのだ。
申し訳ないが“キターッ”と思い

「うるせぇから表出ろや!」

と言って表に出す。
こっちは貴重な休憩時間中だから急いで殴り倒す。
物凄く急いで(笑)

速攻で追い払い、店の中に入りカウンターに座ると自分の中で最高に大人びたクールな感じで

「大丈夫?」

と遂に声を掛ける。

そして名前も聞き出しやっと普通に会話する仲になれたのだ。

彼女の名は直美さん。
俺の五個上で21歳だった。
親がこの喫茶店ともう一つ宝石店を経営していて彼女は店の手伝いをしながら宝石商の勉強をしていると言う。
宝石なんて当時の俺には全くの無縁な妖美なキーワードでまたもや憧れが加速した。
しかももうそこにエロ鬼神は降臨しなかった。
そして俺の事は知っていたと言う。

「最近この辺じゃ有名よね。暴れん棒な若い板前さんが居るって。それって酒井くんの事だったんだね」

酒井くん…

何と素晴らしい響きだろう…(笑)

久しぶりに本田と山土井以外に名前を呼ばれた気がする!(笑)

有名って…知られてはいけない事だらけだから違う意味でもドキドキしながら会話する。

「お母さんがここ一週間くらいカッコいい若い人が来るようになったって言ってたのよ」

ババァは直美さんのお母さんだった!

「あぁ…お母様が…そうですか…」

…カッコいい!?

今カッコいいって言った!?

「でもあんまり喧嘩とかしちゃダメだぞぅ」

出たぁ!(笑)
これを言われる日をどれだけ待ち望んだ事か!(笑)
堅気の上品なお姉さんにこんな事言われるシチュエーションは当時の不良達の夢ですよ!(笑)

彼女の一語一語に過剰反応する俺(笑)
そして今現在彼氏が居ない事は会話の中で誘導して何とか聞き出し有頂天である。
何日かこうやって話すようになったある日

「私、音楽好きなんだ」

と言ったから

「あっ!俺も好きっス!どんなの聞いてるの?」

と聞くと…

「最近はアイアンメイデンとかモトリークルーとか…」

????

歴史上の人物だろうか…?急いでボールペンで手にメモる。
何となく話の流れで分析するとバンド名だと悟る…

「俺も昔バンドでドラムやってたんだよね!」

と言うと

「私ドラマー好きだよ!トミーリー大好きだもん!」

????
ブルースリー?

そう…

彼女はメタル好きだったのだ…!