HISTORY
『 酒井 愁 - HISTORY 』

「板前編・"拾われた未来"」


〜第五章〜



ある夜俺達は仕事が終わり本田の寮でダベッていたら突然コーちゃんが現われ飲み屋に連れて行かれる。
どうやらその飲み屋の女はコーちゃんの本命らしい。すると一本の電話がコーちゃん宛てにかかってくる。電話を切ると

「坊!オマエ等にお友達を紹介してやるわー!」

と言いだす。
おっとっと女か!?と期待すると若い野郎が乾いた2ストのパンパンなエキゾーストを轟かせ単車に乗って現れる。
店の中に入って来てコーちゃんとその男は挨拶を交わすと俺達にその男をコーちゃんが紹介し始める。

「おぅ!坊達!コイツは千葉から修業に来てる山土井だ。オマエ等とタメで結構気合い入ってる奴だから宜しくな」

そう紹介をされてる時にもこの野郎は薄ら笑いしながら俺達にガンくれてやがる。
大体俺達でも坊扱いなのに何でコイツはコーちゃんに名前でちゃっかり呼ばれてやがんだ?
気合い入ってるだ?
何もかもが気に入らん。
タメだぁ?
ならば遠慮はいらん。

「テメェ表出ろや」

俺が仕掛けると

「やるんだったらやってやるぜ?但しタイマンな。かなわねぇからって二人で来んのとかダセェ真似すんなよ?」

久々に完全にブチギレた!

「糞上等だ!来いや!本田オメェ手ぇだすなよ!」

するとコーちゃんがこうなると解ってた様にニタニタしながら

「おい!酒が不味くなる様な事してんじゃねぇよ!ならばゲームにしようや!」

あ?ゲーム?と思ったら交互に一発ずつ殴り合って最後まで立っていられた方が勝ちとコーちゃんは言う。

「おもしれぇ!やってやんよ!テメェは明日板場に立てねぇ!病院に送ってやんよ!」

「ピーチクパーチクうるせぇよ。テメェから来いよ」

余裕くれて先行をこちらに渡しやがった。
ぜってぇブッ倒して土下座させたると渾身の一発をクリーンヒットさせる。
倒れた!そう確信したが辛うじて立っていやがる!
しかしダメージはデカイ筈。
コイツはどうせへなちょこパンチ。早いトコ貰ってトドメを…
と思ったらいいの持っていやがる!
危うく倒される所だった!どうやらナメてかかるとヤバイと察した俺は続くパンチも渾身込めて叩きつける。
がこの野郎は倒れない!

…何発打ち合ったか解らん…若さゆえの意地で二人とも倒れない。
今やったら途中でダルくなってどうでも良くなって倒れちまいそうだが(笑)この時は倒れたら自分の死を意味するくらい重要な事だったのだ。
あまりにも長引く戦いに本田や店の姉ちゃん達が止めに入る。
口の中は切れすぎて血の味しかしないわ拳は歯に当たって切れまくって血だらけだわお互いに顔面は半ザクロ状態。
結局二人とも病院送り。

「不細工な面が余計不細工じゃねぇか糞野郎。でも…よく倒れなかったなこの糞野郎…」

と俺が言うと

「喋れてねぇじゃねぇかアホが…テメェこそ倒れねぇとはな…」

この時を境に山土井はマブになった。
お互いを認め合い気合いは通じ合うものだと知った。

本田にところでコーちゃんは?と聞くと

「あぁ、途中で帰ったよ。明日朝遅れんなよ!だって」

どこまで鬼なんだあの人は!(笑)
でも何処かで必ずぶつかるならぶつけてしまえって感じだったのかと思う。
いや…違うな(笑)
だったら最後まで見届けるだろう。
面白がってぶつけたら意外と長引いてダルくなったに違いない(笑)

次の日俺と山土井は仕事に出れなくて丸一日寝込んでた(笑)
尾崎豊が好きだと言う山土井は

「“十五の夜”を聞いた時俺の曲だと思った」

とヌかすから

「馬鹿!あれは俺の曲だ!」

と切れた口が痛ぇのに一日尾崎を合唱したりしていた(笑)

後にこのタメ年三人組が大きな問題を引き起こす事になるとはこの時俺達は予想もしてなかった…