HISTORY
『 酒井 愁 - HISTORY 』

「板前編・"拾われた未来"」


〜第七章〜



ホテルが変わり何故か正社員とされた俺は初日から遠慮無くこき使われる。

それも雑用や皿洗い等では無くいきなり包丁を扱わさせられるのだ。

五味親方がいきなり真新しい包丁を俺に差し出し

「坊主、オマエの包丁だ。買っておいた。これで精進せい。」

おぉ!いきなり包丁をプレゼントしてくれるなんて味な真似してくれるじゃんよ!
こんな鬼みてぇなオヤジだがいいトコあんじゃん!と俺は無邪気に喜ぶ。
後で初任給からバッチシ包丁代が差っ引かれて俺の初任給は四万強と知る事となるのだが…(笑)

その包丁を手にいきなり命じられたのがキャベツの千切り10個…!
やり方やコツを広瀬さんが教えてくれたのだが当然の如く最初の2、3個は切り口もぶっとく千切りとは呼べる代物にはならなかった。
親方がやってきて

「使い物にならん。全部オマエが食え!今日からオマエの飯は全部キャベツだ!」

と吐き捨てられる。

「糞糞糞糞糞糞死死死死死死」

と親方の後ろ姿に念を送る。
本当にそれから暫らく俺の飯のオカズはキャベツだった!(笑)
野菜が全く食えなかった俺が食えるようになる要因がここにあるのだ。
失敗すると全部自分で食わなくてはならんからな。

しかし少しずつコツが解ってきた。
それなりに千切りになってきた所でまた親方がやってくる。

「やべぇ!俺って天才!どうよ?何か言ってみろ!」

と脳内で語りフフンとしていたら

「坊主、お茶入れろ」

「ハァ!?何言ってんだ!?俺は忙しいんだよ!見りゃわかんべ?アンタがこれやれって言ったべ?」

「ごちゃごちゃ言ってねぇでお茶入れろや!」

ゴリラみてぇな強靱な腕で胸ぐら掴まれいとも簡単に投げられる。
糞〜理不尽だ!!
納得いかねぇ!
湯呑みはそれぞれ全員専用の湯呑みがあるのだ。
親方のデカイ湯呑みを確認すると俺は履いていた草履を突っ込み中に茶を注ぐ。
皆に茶を配ると俺は親方がそれを飲むのを秘かに傍観する。

「飲め!飲め!今オマエの体内に雑菌が入り込み身体の内部から蝕まれる事となるのだ!」

とワクワクしながら凝視していたら口付ける前にその場で茶を流される。

「坊主…オマエのやる事なんてお見通しだ。洗って茶入れろ」

見透かされまくり!
コイツはエスパーかよ?と何故バレたのか解らぬまま恐ろしくなり洗ってきちんと茶を出す。
すると一言…

「不味い!」

理不尽極まりねぇ!!!

何しろこの親方は理不尽王極まりない。
しかも隙が全く無くて前から後ろから殴りかかろうものならそのまま避けられ一本背負いを食らう。
現在も打楽器奏者であるがこの頃から喧嘩も打撃派だったから関節技や投げ技を嫌った(笑)
だから巨大な冷蔵庫に反射する親方の姿を包丁で切り刻んだりしてた(笑)

包丁を扱うと言っても俺がやらされる事なんてキャベツの千切りや山芋のすり下ろしや刺身のつま造りと言った仕込み事。
その量はいちいち大量なのだが。

夜は大体8時に終わる。
仕事が終わると本田と山土井と合流して女漁りかコーちゃんやアキラくんと練習会や飲みが鉄板となっていた。
俺達タメ三人は板前だからって白衣でずっと過ごすのに激しい抵抗を持っていて昼休みでもいちいち髪をセットして着替えて我が物顔で温泉街を練り歩いていた。
夜でもそうだ。
要するにいやがおうでも目立つのだ。
地元のやんちゃ君達と遭遇すれば仕事での欝憤を晴らすかの様に喧嘩を仕掛けまくった。
相変わらず節操無くこの辺の姉ちゃん達制覇するぐらいの勢いで漁りまくりの荒らしまくり。
いちいち乾いた騒音を撒き散らすRZ350が静かな温泉街をあっちへこっちへと爆走するのである。

「坊達…目立ちすぎて目つけられんなよ!?」

その台詞を色んな所からよく耳にするようになってからも俺達の動きは止まる事は無かった。
正に若さゆえ…

そして俺達はやはり目をつけられてしまうのである…周りの人達の忠告が現実となって俺を襲う事となる…