『 酒井 愁 - HISTORY 』
「インディーズ編・"選んだ道は渡り鳥"」
〜第三章〜
遂に俺は相棒であるドラムセットを手に入れた。
暴力的な大口径セット!
言ってみればへヴィメタルバンドでもなかなかお目にかからない様な超ド級のメタルセット。
組み上げ叩きたくてウズウズしていた。
早速次のライブで持ち込む気満々である。
リハーサルに行くと俺は自分のセットを手に入れた事をメンバーに告げる。
するとメンバー達は一気に難色を示す。
44MAGNUMが大好きだった山之内ジェイミー以外。
ジェイミーと言う名は思い切りそこから来てるのがバレバレだ(笑)
実は井沢さんも佐野もメタルはキッチリ通ってきている。
なのにメタルっぽい要素は全否定の姿勢は崩さない!まるでアレルギーの様に!
すると佐野は…
「まぁ…26インチ。ワンバス、ワンタムでツェッペリンと捉えればダサくもないか…」
とまるで妥協点を探すかのような口調で語り始めやがった。
コイツは何を言ってるんだ?
んなわけねぇだろ!?
ツーバスフルセットで持ち込んでガッツリやるぜ!と俺は譲らない!
結果、井沢さんがその場を収めて俺はフルセット持ち込む事になった。
ツーバス、5タム、ツーフロア。
現在でもなかなか見る事の無い要塞セット。
周りの冷ややかな目なんて気にしてらんねぇ!(笑)
ローディーを頼んだ雄二と組み上げてその作品に俺はウットリとする。
リハが始まる。
初めて叩く自分のセットの爆音に酔いしれる。
勿論必要以上に叩きまくる!
しかしバンドでのリハが始まると…
ツーバス…全く使わねぇ!
5タム…そんなにいらねぇ!一度も叩かないタム多数!
ツーフロア…必要ねぇ!
しかもハイハットを踏んでいたのに左足が動いてるのを佐野は覗きこんできて…
「ツーバス踏んでるのかと思った」
と嫌味にも似た事まで言ってきやがる…!!
確かに…!
確かにこの化け物はこのJACK BLUEには必要が無い…!!
「兄貴が不憫なんスよ!姉さん!超かっけぇドラムなのに叩けないんスから!いや、叩く必要がないんスから!えっ?あれ?バンドが兄貴に合ってない?兄貴がバンドに合ってない?あれ?」
とライブ後雄二が直美さんに言っていたが直美さんはその件に関してはその時は何も言わなかった。
後にこの件について直美さんに俺は聞いた事がある。
「男がドラマーとしてどんなプレイスタイルで確立していくのかなんて女が意見する事じゃない。沢山試して沢山失敗すればいい。そうやって自分が負った痛みから愁にとって正しい道が開けると思ってた」
と言っていた。
それを聞いて俺は女は強いなと思ったりした(笑)
しかしこれはきっと正しかったのだろう。
セットを手に入れてから俺の居場所はこのバンドでは無いのかもしれないと言う思いが溢れだしてきていた。
でもバンドマンとしての活動を止めたくはない、そして何よりも次なるバンドも決まって無いのだから俺は此処で頑張ろうと藻掻いていた。
それでもこの巨大なセットをフルに使いもしないのに毎回持ち込んでいた。
JACK BLUEはこの辺りから都内のライブハウスだけでなく都内近郊や沢山のインディーズバンドが出演するイベントなんかにも出る様になっていた。
しかしながら集客は何処のバンドも似たような有様であったが…。
俺はその辺りから周りのバンドの連中を観察するようになっていた。
この頃は対バンにしてもかなり大味で一色多でブッキングされていた。
今で言う〜系と言う括りが無い時代だったからか?
それが俺には都合が良かったのかもしれない。
色んな奴等を見る事が出来た。
そんな時に同じ楽器屋で働くパンク好きの新山くんが新しいバンドを始めたと言う。
横須賀サーベルタイガーの元ヴォーカルと一緒にバンド組んだからJACK BLUEと対バンしようと持ちかけて来たのだ。
それが後のデランジェのヴォーカルのKYO氏であった。
とにかく客が入った。
いつもスカスカのライブハウスが人でギッチリ埋めつくされ、俺は初めて満員の客の前で演奏した。
初めてこのインディーズシーンにおいて客を呼べる人間に出会った瞬間でもあった。
そのライブの日の楽屋に現れた一人の男に目を奪われる…。
大きめのコンチ帽を被り、長い金髪を横に流し垂らし、大きなサングラスをかけ、今迄感じた事も無い様なROCKなオーラを発し、そこに居る誰よりもスタイリッシュなその男…
決して大柄では無いのにやけに原寸よりも大きく見えた記憶がある。
どんなに屈強な男と対峙しようが本職に睨まれようが怯んだ事等無い俺なのに、一気にその男が放つ異質なオーラに飲まれつつあったのだ…。
「何者なんだ…コイツは…」
その感覚は今でもハッキリと覚えてる…。
そして去り際にその男は何故か俺に近づいて来て、俺に向かってこう言った…
「オマエ、幾つ?」
すると俺は
「あ?18だけど?」
すると…
「へぇ…わりと叩けるじゃんよ」
そう言い放ちその男は去っていった…
その時は…
「なんなんスか?あのスカした野郎は?」
と新山くんやKYOさんに聞いた記憶がある…
しかし不思議と嫌悪感は感じなかった記憶もあるのだ。
それが俺とhideさんの初めての出会いだった…。