『 酒井 愁 - SERIAL 』
〜第一幕〜
〈悲観は時間の無駄だ〉
人間と言う生物は比較する事が大好きな生物だ。
君にも覚えがある筈だ…
自分より弱い者、能力が劣る者に対して嗅ぎ分ける嗅覚力はどんな人間でも誰でも持っている能力の一つと言っていいだろう。
自分が優位に立っている時のあの優越感を思い出せ。
自分より下の人間が存在すると認識した時のあの安堵感を思い出せ。
自分の心が満たされている時は必ず君を羨んで、妬んでる人間が必ず居るはずなのだ。
君が気づいていないだけで激しい憎悪を向けられているのかもしれない。
そんな時、人は自分に向けられた様々な感情は何も刺さらないし感じもしない。
そんな時に惨めな気持ちになったりする人間は居ない筈なのだ。
むしろ人に哀れみを感じたりする余裕すら生まれてくる始末であろう。
しかし逆はどうだろう…?
自分を悲観する事しか出来ないくらいの闇に包まれ、絶望と言う名の双璧に覆われ自分以外の人間が眩しく見え過ぎる時は誰の言葉が一体君の心に刺さるのだろう…?
人は要因、原因を求めそれにすがりたがる…
そう…“何かのせい”にしたがるのだ…。
必要以上に自分に優しくして欲しいと願うだろう。
必要以上に自分を必要な人間と評価して欲しいと願うだろう。
それは果たして恥ずべき事なのだろうか…?
実は恥ずべき事ではないのだ。
誰しもが必ず持っている平等な闇なのだ。
俺も決して完全無欠の強い男では決して無い。
それどころかその真逆にいる男と言っても過言ではないかもしれない。
人並みに人を妬んだり、恨んだりする感情は持ち合わせている。
何も変わらない一緒だ。
「自分ばかり…」
口癖の様にこんな言葉が脳裏から離れない時に誰かを傷つけたり、自分を傷つけたりする前にこの言葉を思い出して欲しいと切に願う。
“時間の無駄だ”
人間は限りある時を授かり生かされている。
悩みや苦悩の果てに人は成長を遂げ豊かな経験となり人格をも育てる事もあるだろう。
しかし過剰な悲観は時間の無駄だ。
限りある時を過ごす俺達にとって馬鹿馬鹿しい程、時間の無駄なのだ。
忘れないで欲しい…
悲観から生まれる物は何もない。
絶望の加速と社会への…ある個人への醜い憎悪を育てる結果しか生まれないだろう…
生を受けた意味なんて誰にも解らない。
いや…そんな事に大した意味は無いのかもしれない。
その意味が欲しいと願うなら…
その意味を求めて人は生きてると感じるのなら…
尚の事、悲観は時間の無駄なのだ。
悲劇の主人公は“可哀想”と涙を流してくれる視聴者がいて可哀想な主人公を評価してくれるのだ。
しかし残念ながら君の主演する物語は君を評価してくれる視聴者は居ないのだ。
共演者ばかりの中で君の悲劇に耳を、目を傾けてくれる人は数少ないだろう。
それどころか本質的には一人も居ないかもしれない。
だから時間の無駄だ。
悲観すると言う、まるで雨で出来た水溜まりにハマるみたいな精神トラップに引っ掛かってるんじゃねぇよ。
そんな所で呑気に罠にかかってる暇なんて俺達には無い筈だぜ?